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ハトノユメ

自作小説ブログ

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春にあそぶ (6)

「お元気になられたようで、ほっとしました」

レイナが紅茶も菓子もおおかた平らげたころ、黙って給仕をしていたユウリが口を開いた。

傍らに立つユウリの顔を見上げる。

「やっぱり、たまたま運んできたわけじゃなかったんだね」

「気づいておられましたか」

「このごろめったに顔を見せないくせに、急に来たら誰だって変に思うさ」

「それもそうですね」

ユウリはわずかに苦笑したような表情を見せた。

ユウリはあまり感情が表に出ない。表情の変化がごく小さいために、まわりの者にはわかりづらいようだ。もっとも、長い時間を共有してきたレイナには、わずかな変化でも十分に感じ取ることができるのでさほど気にはならないが。


「ねえ、そこ座ったら。少し話をするくらいの時間はあるでしょ」

レイナは椅子を指し示した。

「いえ、このままで」

「立ったままでいられると話しづらいんだ。目線は同じ高さのほうがいい。座って」

ユウリは少しばかり躊躇したが、レイナが譲らないのを見てとったのか、

「では、失礼して」

といっておとなしく椅子に座った。

------

「さきほど給仕場の前を通りかかりましたら、レイナさま付の女中がたから声をかけられました。最近お嬢様の元気がまるでない。お茶の時間も楽しくなさそうで、何をたずねても、自分たちには一向にお話にならない。どうしたものか困っている。それでぼくに、ちょっと様子を見てきてはくれないか、ということでしたので」

ユウリの視線は、卓の上に放り出されていた刺しかけの布地を見つめていた。

レイナはそれをつかむと、とっさに卓の下に隠した。

刺しかけの図案をみられるのは気がひけた。


「刺繍は、つまらないですか」

ユウリが静かに問うてきた。

「あまりはかどっていないようですね」

「……向いてないんだよ」

「レイナさまは活発に動き回るのがお好きでしたからね」

「……今もさ。剣の修行だったら喜んでするんだけどね」

「だんな様から止められているでしょう」

「そう、愛用の剣まで取り上げられたよ。もうこれからは必要ないってさ。ずっとがんばってきて、士官学校まででたのにな。だんだん体がなまっていくのが嫌だよ」

「これからは、貴婦人としてのたしなみも身につけなくては、というのがだんな様のお考えなのでしょう」

「……わかってる、兄上が心配して色々仕込もうとしてくれているのもわかってるさ。でも、生まれ持った性分というものがある。貴婦人らしくと言われても、どうもしっくりこなくてさ。父上は私のそういう性分をわかっていたから剣を教えてくれたんじゃないかと思うんだ。できれば続けたいんだけど、兄上は許してくれないだろうね」



庭を駆けまわる自分。

それを見守るきみ。


ユウリと共に過ごしたかけがえのない時間。

ずっと続けばよいのにと思ったあの日々。

いずれは終わりがくることはわかっていたけれど。


「ねえ、ユウリ。ときどきは顔を見せに来てくれないかな。きみも仕事と勉強で大変だろうけど、ぜんぜん来ないなんてずいぶん薄情じゃないか」

そう言われて、ユウリはわずかに表情を曇らせる。

申し訳ない、という意思表示のようである。

「レイナさまはだんな様の言いつけでたくさんのことに取り組んでいらっしゃるでしょう。お邪魔かと思って遠慮していたんです」

「よく言うよ。どうせ兄上があまりわたしと話をするなと言ったんだろう?わたしにあまり外の話を聞かせるなってさ」

「そのようなことは……」

「まあいいさ。毎日部屋に閉じこもって同じことばかりしていると気が滅入るんだ。剣の相手をしろなんて言わないからさ、たまには前みたいに話を聞いてよ。」

「ぼくなどで良いのでしたら」

「愚痴を言える相手なんて、ほかに思い浮かばない」

「それは光栄なことで」


あの春の庭。

きれいな、きみの後姿。

みどりの首飾りをしていたきみの、穏やかな顔。


いつまでも見ていたい。

見ていることができたなら……

(つづきへ→)

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