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ハトノユメ

自作小説ブログ

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明け方の散歩道(3)

ベンチが見えてきたところで、トキはいつもと様子がちがうことに気づいた。

彼が座ろうとしているそのベンチに、先客がいたのだ。

ぽつんと一人、海を見ているらしい。

こんなことは今までなかった。

早朝散歩で人に会うこと自体が稀なのに、この人目につかない場所に置き去りにされたような古ぼけたベンチに人が座っているところなど、昼間の浜でも見たことがない。

トキはやや距離をおいたところからベンチに腰掛ける先客の背中をながめた。

少年のように見える。

年のころはトキとさほど変わらないような印象。

髪が海風でかすかにゆれている。

どうしたものかと思案していると、ベンチに座る先客がふいに振り向いた。

驚いたトキと、先客の目が合う。

トキが何を言うべきが考えていると、ベンチの少年が先に口をひらいた。

「ごめん、もしかして君の特等席なのかな、ここは」

そう言って、すまなそうな顔をする。

トキは首を横に振ってから、

「そんなことはないよ。誰が座っていもいいんだ、そのベンチは」

と答えた。

ベンチは公共のものだから、トキに占有権はない。

先客がいるのなら、ほかの場所へ行けばすむことだ。

そう思って立ち去るつもりだった。

トキのそういう気配を察したのか、目の前の少年はベンチから立ち上がるとトキのほうへ歩いてきた。

「でも、君はここで日の出を見ようとしてるんじゃないの」

トキの前に立った少年はさらに問う。

トキは何と言うべきか迷った。

しばらく沈黙していると、少年のほうがまた口をひらいた。

「ひとりで見るほうがいい?」

「え?」

「日の出を見るときはひとりがいいのかって聞いてるのさ」

「べつに、そんなことはないけど……」

いままで日の出を見るときに人と遭遇したことがなかったので、考えたことのないことだった。

しかしながら、どうしてもひとりで見たいという感覚はない。

「それなら、ここでいっしょに見ようよ」

少年はトキに言うと、トキの腕をとってベンチのほうへとひっぱっていく。

トキは少年に促されるままベンチに腰掛けた。隣にすこし距離をあけて少年も座る。

「もうすぐだね」

少年はそう言って海のほうへ目をむけた。トキも同じほうを眺める。

なんだか妙なことになった。が、別に悪い気分ではない。

少年のまとう雰囲気には不思議な穏やかさがあり、トキに警戒心を抱かせなかった。


たまにはこんなのもいいかな、と思った。


(つづきへ→)

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この柔らかな雰囲気好きです♪
夕日のシーンとか。誰かと一緒に見ると違って見えたりしますよね★

続き待ってます!

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