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ハトノユメ

自作小説ブログ

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夏にたびだつ (6)

傾いてきた日の光が、二つ並んだ影を長くしてゆく。

レイナはレンガの古町をゆっくりと歩く。その後ろをやや距離をとってユウリがついて行く。あたりに他の人影はない。


「本当のことを申し上げれば、だんな様があなたから剣を取り上げられたとき、ぼくはほっとしたんです」

先を歩くレイナの背中に、ユウリは言った。

レイナが立ち止まってふり返る。ユウリも立ち止まった。

「これであなたは危険な道を選ぶことはなくなると。あのまま剣の修行を続けていたら、命を縮めてしまう気がしていたので。あなたには、平穏に暮らしていただきたかった」

「うん」

「しかし、剣を取り上げられ抜け殻のようになっているあなたをみているのはつらかった。いくら平穏に暮らしていても、あれでは意味がないと思いました。あなたには、剣という生きがいが必要だと」

「うん」

「ご自分で剣を取り戻したあなたがゆるしてくださるのなら、ぼくはどこまででもお供したいと思っています」

レイナはゆっくりとユウリのほうへと向き直る。

透き通るような笑顔でユウリを見た。


「……ありがとう、ユウリ、本当にありがとう。きみが一緒に来てくれるなら心強い。一緒にこの国のためにできることをしよう」

その言葉を聞いたユウリもかすかにほほえんだ。

------

丘の上に広がる空に、みるみる積乱雲がふえてゆくのがわかった

あたりが暗くなってくる。

二人で大きな庇の下まで駆けて行った。

たどりついたとほぼ同時に雨が降り出す。


「雨がやんだら戻りましょう」

ユウリが帰宅を促す。

「あまり気が進まないな……。兄上に会いたくない」

レイナは渋い顔をしてみせた。

「きちんと出立のご挨拶をしないと」

「それはそうだけど……。やっぱり今日はどこかで宿をとって頭を冷やすよ」

「宿代はお貸しできませんよ」

「ケチ。野宿しろって言うのかい」

「そうではありません……ぼくも持ち合わせがないんです」

「なんだ、そういうことか」

レイナは思わず吹き出した。

ユウリも笑っている。


遠くで雷鳴が聞こえた。

「ああ、しばらくここで足止めですね」

ユウリがため息混じりにつぶやいた。

「私が頭を冷やすにはちょうどいいか」


空を稲光が切り裂くのを、二人で長いこと眺めていた。

あまりにも鮮やかなその光は、忘れられない夏の記憶としてレイナの脳裏にくっきりと刻まれた。

そして、この光景がユウリにとっても印象深いものであってほしいと、思った。


(第三章へすすむ→)

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