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ハトノユメ

自作小説ブログ

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鼎談 (3)

上官から言い渡された任務の内容は奇妙なものだった。

それは要約するとアルバトロスたちパイロットが敵地へと潜入し、そこに秘かに準備されているという戦闘機に載って奇襲をかけるというもの。

通常アルバトロスたちは国内に点在する基地のどこかから飛び立ち、敵地なり目的地なりを目指すものだ。ごくまれに基地ではない場所に飛行機を準備し飛び立つ場合もあるが、それでも離陸場所は国内のどこかだ。敵国へと潜入しそこから飛び立つことなどかつてなかった。

そもそも飛行機というのは制空権を得られるという点で非常に有用ではあるが、その反面なかなかに使用条件を選ぶ代物だ。まず飛行機が本来の力を発揮するのはもちろん空を飛んでいる時だが、そのためには離陸という作業がどうしても必要だ。そして離陸には滑走路がいる。滑走路はどんなに小型軽量の飛行機でもある程度の長さと意外なほどの平坦さを必要とする。そんな場所を敵地に、相手方に見つからずに用意するなど現実的に無理な話ではないか。

アルバトロスが考えをめぐらしていると、上官が計画のより具体的な内容を語りはじめた。それによると、離陸場所は敵国の領内ではあるが、自治権をみとめられている辺境の異民族が住む地域だという。それを聞いてアルバトロスはそれなら十分に可能だと思った。

その自治区というのは現在は敵国に従属しているものの反発心が根強いところで、絶えず独立の機会をうかがっている気配がある。我が国への離陸場所の提供くらい、素知らぬ顔でやってのけそうである。上官の語るところでは自治区は表立った武装は禁じられているために整備された滑走路はないが、有事にそういう目的に流用するために作られた幅の広い直線自動車道が数か所あり、そのなかの山中に設けられているところを使う手筈になっているらしい。飛行機は敵国に知られないよう部品の状態で少しずつ自治区に運び入れ現地で組み立てを行ったとのことで、すでに準備は万端であるという。

あとの問題はパイロットの確保ということになる。もしかしたらこちらのほうがより困難かもしれない。何しろ自国とその自治区の間には直接たどり着ける方法がない。どうしても敵地を横断しないとならないのである。


(つづきへ→)

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鼎談 (2)

バーディが協調性なきメンバーの筆頭として名前を挙げていたイーグルは、前のほうの窓側に座っている。

まわりとはかなりの距離をとり、静かに窓の外をながめている。さすがに煙草はすっていない。

その後姿からは、空にいるときの刃物のような印象は受けない。やや大人びた、洗練された少年に見える。

(アル)

隣のバーディがささやき声で呼びかけてきた。

このところ、バーディはアルバトロスを「アル」と愛称で呼ぶようになった。

それは、前の基地にいたころ非番の日に足繁く通った喫茶店の店主に呼ばれていたのと同じ名だ。その店でよくドーナツを食べた。店主の手製で、特別の配合をしてあるという粉で作られたリングはふんわりとして忘れられない味わいだ。時間ができたら、ぜひまた食べに行きたいと思う。

そんなことを考えていたアルバトロスに、バーディはキャンディを一つ寄越した。

(昨日売店で見かけた新しいやつだよ)

バーディは口のなかでキャンディを転がしながらささやく。その姿は無邪気な子供のようで、彼とイーグルが同い年だというのが信じられないくらいだ。ころころとよく笑う彼は、アルバトロスをなごませてくれる。

(ありがとう)

アルバトロスはそうささやいて、キャンディを口に放りこんだ。柑橘系の味だった。

(どう?)

(うん、おいしい)

(よかった。アルはきっと好きだと思ったよ)

(どうして?)

(だって、アルはいつもレモン水を飲んでるじゃない。かんきつ類、好きでしょ)


今の基地へきて一番よかったことはバーディと知り合えたことかもしれない。アルバトロスには愛称で呼んでくれる友人などいたことがなかった。そういう存在は貴重だと思う。

ずっと飛ぶことばかり考えていた自分。それが辺境の基地へ異動になり、自分を見つめなおす時間を得た。そしてあたたかく出迎えてくれるあの店の店主と出会い、人との関わりの大切さを知った。

戦うことにのみ価値を見出していたあのころのアルバトロスはもういない。もちろん飛行機に乗ることは今も好きだが、過剰なまでに好戦的だったころとは様変わりしている。

あのころの自分が、イーグルやバーディの言っていた《噂》の対象であるのだろう。

《噂》のなかのアルバトロスは消えてしまったのだ。あとに残ったのは、戦いの必要性を考えるようになったひとりの平凡な乗り手であるとアルバトロスは思っている。


アルバトロスがキャンディを食べ終えたころ、上官が姿を見せた。前方に設えられた壇上に立ち、室内をながめる。

「全員そろっているようだな」

そう言うと上官は一つ咳払いをしてから、

「では、諸君へ特別任務の説明を始める」

と話をきりだした。


(つづきへ→)


鼎談 (1)

新しい基地に来て三か月ほどたった。環境に徐々に慣れ、淡々と仕事をこなせるようになりつつある。

近隣への偵察任務から戻り一息ついていたとき、アルバトロスは上官から呼び出しをうけた。館内放送で名指しで呼ばれるなどここへ来てから一度もなかったことだ。「なにかあるな」ととっさに考えをめぐらせる。

辺境の任地へ追いやられていた自分がより前線に近い所に異動になったからには、なにかやることがあるのかもしれないとはうっすら考えていた。バーディも前に似たようなことを口にしていた。この基地に戦力を集めているのではないか、と。

たしかに今の基地にはイーグル、バーディをはじめほかにも幾人か将来有望そうな若手の乗り手が集まっているという印象はある。

ほんとうに大きな仕事をさせるつもりかもしれないな。

そんなことを考えながらアルバトロスは廊下を静かに進んだ。


呼び出しアナウンスで指定されていた会議室に入った。机と椅子が整然と並ぶ室内には先客がある。イーグル、そしてバーディ、ほかに三人。

バーディがアルバトロスに気づいて手招きをする。

自分の隣に空席があることを身振りで示している。

広い会議室だから空きはほかにいくらでもあるが、彼の誘いを断る理由はとくにないので促されるまま隣の席に座った。

ほかの者は、それぞれに微妙な距離を空けて席をとっている。バーディいわく協調性がないというこの基地のメンバーらしいちらばり具合。そのことはこの三か月でアルバトロスも認識していた。

ほかの基地とてとりたててメンバー同士の仲が良いところなどそうはないが、この基地を構成する乗り手たちの気ままぶりはほかの基地よりもぬきんでている。休憩室でも誰かが話をしている場面を見かけることは珍しい。皆それぞれに静かに憩っていることが多い。

バーディはアルバトロスによく話しかけてくる。だが人なつっこく話好きな様子の彼でさえ、ほかのメンバーと話をしているところはあまり見ない。彼のほうはもっと話したいと思っているのかもしれないが、相手の相槌は芳しくないのだろう。


(つづきへ→)


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