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ハトノユメ

自作小説ブログ

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僚機 (6)

アルバトロスが去った休憩室には、入れ違いにイーグルが姿をみせた。

イーグルはアイスコーヒーをもらうついでに室内をさっと見回した。バーディを見つけて近づいていく。

「相変わらず好きなんだな、その菓子」

うしろから声をかけた。バーディがふりむく。

「おいしいんだよ、これ。イーグルもどう?」

バーディはスナックの袋をさしだす。もう四分の三は食べてしまってある。イーグルは一瞬間をおいて、「一個くれ」と言って手を伸ばした。赤い塊をつまんでくちにはこぶ。適度な塩味と酸味。

「ああ、たしかにうまいな」

「でしょ」

得意げなバーディはまたスナックを食べはじめる。イーグルはアイスコーヒーを一口のんでからバーディの隣に腰かけた。

「あいつは?」

「あいつって?」

「アルバトロス」

イーグルは周囲を見回しながら訊ねた。


「部屋にもどったよ。さっきまでここにいたけど、お菓子食べたら眠くなってきたって言って」

「……そうか」

イーグルは煙草を取り出して火をつけた。眉間にしわを寄せて煙草をふかすイーグルの様子に、バーディは奇妙なものをかんじた。

「どうだったのさ、今日の任務」

イーグルはちらっとバーディのほうを見た。だが言葉は発しない。

「アルバトロスはどんなかんじだった?うわさどおりの乗り手だった?」

イーグルは煙をふうっと長くはくと、灰皿を引き寄せて煙草を押しつけた。

「あいつ、ほんとうにブランクがあるのか?」

「ブランクって?」

「辺鄙なところに行っていたんだろう?戦闘任務なんかずいぶんやってなかったはずだ。飛ぶ前は本人もそう言っていたが、謙遜してやがったんだな。にくたらしい」

バーディは目をまるくした。スナックを食べる手が止まる。

「話がよくのみこめないな。今日は偵察任務でしょ。敵に遭ったの?」

「……ああ」

イーグルは敵四機と遭遇した一部始終をかいつまんでバーディに話した。


「一瞬?一瞬で二機堕としたの?アルバトロスが?」

「そうだよ。おれがてこずってる間にあっさり堕とした。いつ堕としたのか気づかなかったよ」

「へえ、すごいな」

イーグルの眉間のしわが更に深くなる。

「のんきなやつだな」

「どうしてさ」

「あいつがうわさどおりの腕前なら、うかうかしていられないぞ。おれも、お前も」

イーグルは新しい煙草に火をつけた。

「まあ、そうかもしれないけどさ。でも」

「でも、何だよ?」

「仲間だからいいじゃない。心強いってもんだ。敵じゃ大変」

「そりゃそうだが……」

バーディはソーダを飲んだ。すこし炭酸がぬけかけている。

「悪いやつじゃないと思うよ、アルバトロスは」

ぽつりと言ったバーディのほうをイーグルが見る。

「ちょっととぼけたところがあるけどね」

「ちょっとか?相当だろう」

イーグルはあきれたような表情を見せた。アイスコーヒーを一気に飲み干し、休憩室を去っていく。

その後ろすがたを見送りながら、バーディは、ふだんはクールなイーグルをあれだけ熱くさせるアルバトロスはやはりうわさどおりの腕前なのだろうと思った。自分もはやく一緒に飛んでみたいという気持ちを強くする。


一緒に飛んだら、ぼくもあのくらい取りみだしてしまうのだろうか。

ふとそう思った。


(つづきへ→)



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僚機 (5)

滑走路に二機が戻ってきた。

そのまま格納庫の前まで移動する。アルバトロスは飛行機を停めるとコックピットをでた。翼をつたって地面へと降り、機体のまわりを一周する。

一見したところ、損傷箇所はなさそうだ。

細かなチェックは整備士に任せ、アルバトロスは休憩所へ行くことにする。途中、イーグルとは会わなかった。彼の機体は別の格納庫を使っている。飛行機を降りたその足で上官へ報告に行ったのかもしれない。偵察任務の場合、報告はリーダーにのみに科せられる仕事だから、アルバトロスにはもうすることはなかった。

休憩所でいつものレモン水をもらったアルバトロスは、手近な椅子に座って一息ついた。

そこへバーディがやってくる。バーディはテーブルをはさんで向かいの席に腰かけると、

「どうだった?」

と身を乗り出して訊ねてきた。

「どうって?」

今日の飛行のことを聞きたいのだろうとは思ったが、具体的にどのポイントに興味があるのかはかりかねたアルバトロスはおうむ返しに言った。

「イーグルと飛んだんでしょ?どうだった、彼の飛び方は」

今日のバーディはソーダの瓶を手にしている。かすかにシュワシュワと音をたてながら絶えず泡をうみだしているその飲みものは、まるでバーディそのもののようだと思った。

「切れ味するどい飛び方だったな。それと、速度の上げ方のテンポがとてもよくて、一緒に飛んでいて気分がよかった」

アルバトロスは今日の任務中にかんじたことを率直に話した。

「きみの印象でも、かなり腕がいいと思った?」

「うん、たぶんかなりいいんじゃないかなと思う」

アルバトロスはイーグルが戦闘中にどんな動きをしていたかは見ていない。彼は敵機を一機墜としているはずだが、その前後はアルバトロスも敵と交戦していたのでひとの飛び方を観察している余裕はなかった。だがそれ以外の場面から想像して、彼が相当の乗り手であることはほぼ間違いないだろう。

そのあといくつかバーディと言葉を交わしているうちに空腹をおぼえたアルバトロスは、席をたって休憩所の端にある売店をのぞきにいく。バーディもついてきた。

品揃えは菓子が中心で、ビスケットやスナック、キャンディーやミントタブレットが数種ずつ並んでいる。バーディは迷う様子もなくスナックを買った。トマトのフレーバーがついているらしく赤いパッケージが目を引く商品で、「おいしいよ、ぼくはいつもこれ」というバーディは、支払いをすませるとすぐに封を開けて食べはじめた。本当に好物らしい。

アルバトロスはビスケットを買った。席にもどって食べてみると、ほのかなバターの風味でおいしい。

「そういえば、バーディ、ぼくきみに聞きたいことがあったんだ」

「なに?」

バーディはトマトのフレーバーをくっつけてぱくぱくと食べつづけているために口の周りをわずかに赤くしている。そのすがたは妙に愛嬌があると思った。

「この基地のちかくで、ドーナツを売ってる店はある?」

「ドーナツ?好きなの?」

「うん、食べたいんだけど、どこで買えるか知ってる?」

バーディはスナックを食べる手を止めて「うーん」と言って考えはじめた。

「基地は市街地からはなれているからなぁ、周りに店はないよ。バスで三十分くらい行くと街があるから、そこにならあるかもしれないけど、確信はない」

バーディはすまなそうな顔をした。

「ごめん」

「そんな、気にしないで。すごく食べたいってわけじゃない」


売店で買ったビスケットを半袋ほど食べたあたりで、アルバトロスは空腹が満たされ眠くなってきた。バーディに「お先に失礼」とあいさつして休憩室をでた。

いつの間にか日はかたむき、窓から西日がさしている。もう、今日の任務はないだろう。今の腹具合では、夕飯は食べられそうもない。シャワーで汗を流したら、早めに床につくことにする。


オレンジ色に染まった廊下を静かに歩いてゆく。途中、誰とも会うことはなかった。


(つづきへ→)


僚機 (4)

前を飛ぶイーグルがやや左にそれたのを見て、アルバトロスは右に舵をとり、敵の目標を分散させる。敵は二機ずつに分かれて左右に展開。まもなくアルバトロスは自分のほうへ向かってきた敵機とすれちがう。

すれちがいざまに相手の一機が撃ってきたが、かすりもしなかった。

敵と交錯した刹那、アルバトロスのなかで、いつもは眠っている神経が目覚めるような、何かのスイッチがはいる。

そこから先は一瞬のこと。

アルバトロスは機首を上向け急速に上昇、即座に反転して、動きの鈍い敵機のひとつを捉えると機関銃を撃った。そのままその一機の横をすりぬける。後方で煙があがり、先ほどとらえた機体が高度をおとしてゆく。正確にエンジンに被弾させていた。

アルバトロスはそれには目もくれずもう一機に近づく。下方にいる相手にむかって飛ぶ。やや距離をとって行き違うと敵機が後方についた。それを上昇、ひねりの連続動作で振り切り逆に敵機のうしろをとる。呼吸をとめ、機関銃を撃つ。とらえた。


敵を墜としたアルバトロスは僚機のイーグルを捜した。やや離れたところで二機が交錯しているのが見えた。アルバトロスがそちらにむかっていくと、その動きに気づいたらしい敵機はイーグルとの交戦から離脱し逃走した。向こうは二機を同時に相手する気はないのだろう。

イーグルはしばし敵機を追ったが向こうが上昇したときに距離をあけられた。上昇力は敵の機体のほうがすぐれていたらしい。イーグルは深追いはせず途中で引き返してきた。敵機ははるか遠く小さな点となる。

戻ってきたイーグルと合流したアルバトロスは彼の機体の後ろについた。イーグルは翼をすこしふった。帰ろうという合図。それを見て、アルバトロスもまた翼をふりかえす。今度は無事に帰路につけそうだ。イーグルとの距離をややあける。ゆったりと、なめらかに飛んだ。

先ほどはいっていたアルバトロスの中のスイッチは、いつの間にか切れていた。


(つづきへ→)



僚機 (3)

見たところ、眼下の工場群に稼働している気配はない。

高度を落としてしばらく観察してみたが、やはり人がいそうにはなく、機械が稼働している様子もない。

イーグルが翼を振った。帰るという意思表示だろう。アルバトロスも同じように翼を振って「了解」の合図を送る。

Uターンしようとしたとき、前方斜め上にきらりと光るものが見えた。

四つの光が徐々に大きくなる。戦闘機、おそらく敵機だ。こちらに気づいて向ってきている。

アルバトロスはまた翼を振った。「どうする?」とイーグルに問いかけるためだ。

今日は偵察任務だから、このまま飛び去ってしまうのが妥当だろう。

アルバトロスはそう思ったが、今日のリーダーはイーグルなので、判断を仰ぐことにする。イーグルはUターンをやめて光のほうへ向かう進路をとった。迎え撃つ、ということだ。それを見て、アルバトロスも戦闘態勢にはいる。

ひさしぶりの緊張感に背筋がすこしふるえた。

(つづきへ→)



僚機 (2)

イーグルは、切れ味鋭い飛び方をする。

力強く加速し、ぐんぐん高度をかせいでゆく。空に放たれた刃物のように、空を切り裂いて飛んでゆく。

イーグルの腕前が、今の基地に移ってからこれまでの任務で組んだほかのどの乗り手とも比べようのないくらい抜きんでているということは、飛び立ってすぐに納得した。

スピード感がまるでちがう。

アルバトロスは、イーグルの機体のうしろに、やや距離をとってついていった。

下には山岳が広がっている。一面の緑の上を、飛び続ける。

今日の任務はイーグルがリーダーだ。今の基地での経験や実績を考えれば当然の役割分担。アルバトロスはイーグルを補佐することを第一の任務とする。

まもなく目的のポイントに到着した。そこにあるのは古びた工場群だった。敵の軍事施設だったが、さきの戦争で爆撃され撤退し、その後は稼働していないといわれていたらしい。

それが最近になってまた使われはじめたとの情報が入り、今回の偵察任務が行われることになった。

このあたりは国境ちかくの領有権があいまいな場所である。戦争の度に所属する国を変えてきたようなところで、今は領有を主張する国の間で決着がつかず、中立地帯となっている。そこで敵国が軍事施設を稼働させ始めたとなれば、見過ごすことはできないということなのだろう。


末端の飛行機乗りであるアルバトロスには、上層部の考えはわからない。

深く知ろうとも思わない。

そういった駆け引きは、自分とは次元の違う世界の出来事だ。飛ぶことが、自分の仕事。そう思ってずっとやってきた。


あのときまでは。


(つづきへ→)


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