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ハトノユメ

自作小説ブログ

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そしてまた、春

森の中のひらけた一帯に、沢山の石が並んでいる。

さきの騒乱で喪われた人々を弔うために建てられた様々な石。

傍らには、種々の花が供えられている。

まだ到底、傷は癒えない。


奥まったところに、少し大きな石がある。

その周りには、ひときわ沢山の花が供えられている。


国を救い、【英雄】と呼ばれるようになった人が眠る場所。

そこに、人影がひとつ。

墓石の前に跪き、一心に祈りを捧げていた。


「レイナさま」

ユウリはそっと、石に触れた。

冷たいはずの石が、不思議と暖かく感じられた。

きっと魂がいるのだ、ここに。

「あなたは僕に、どんなお話をされるおつもりだったんです?」

石に問いかける。答えは返ってこないことはわかっているが、そうせずにはいられない。

「ぼくも、あなたにお話したいことがありました。ずっと言えなかったことがありました……いずれ、ぼくがあなたのところへ行くことができたらお話します」

石に触れたユウリの手はかすかに震えた。

「どうか、どうかやすらかに」


旅装のユウリが森を離れていくのを、丘の上にいる男がじっと見つめていた。

背の高く身なりの良いその男は、ユウリの姿が見えなくなるまで、身じろぎもせず凝視していた。

傍らにひかえる初老の連れが、気遣うような視線を向ける。

「行ってしまいましたね」

「うむ」

「よろしいのですか?」

「今回の責を負って職を辞すというのだ。私には止められなかったよ」

「さびしくなりますな、だんな様」

「……そうだな」

アレイス家現当主であり、亡きレイナの兄、ワレリィ・アレイスと初老の侍従は、その足でユウリが今しがた立ち去った墓地へと向かった。


------


墓には、首飾りが一つ供えられていた。

みどりの石をいくつも連ねてある。

「これは、ユウリが供えていったのでしょうか」

「おそらく」

「お嬢さまはこういう品がお好みでしたか」

「さあ、レイナは装飾品にはあまり興味がなさそうだったが……だが私たちは知らなくとも、ユウリはレイナの好みを知っていたかもしれんな」

ワレリィは祈りを捧げると、墓石に問いかけた。

「レイナ、お前は気づいていたのか」

みどりの石が、きらりと光った。

「ユウリはどことなく似ているな、父上に。目元が、特に似ている気がした」

「だんな様、それは……」

「もちろん憶測にすぎない。父上も、ユウリも、何も言わずじまいだからな」


ワレリィは墓石に手を触れた。

「レイナ、お前にとっては、取るに足らないことだったのかも知れんな」

ちかくを二羽の蝶が飛んでいる。

白い蝶と、黒い蝶。

まるで戯れるようにらせんを描いて。

くるくる、くるくる。

はたはた、はたはた。


この地にも、遅い春が来たらしい。


《完》
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冬にねむる (8)

紋様の力を爆発させたレイナはもはや立っていることができずその場にうずくまった。

たたみかけるようにめまいに襲われる。

天と地がめまぐるしく入れ替わり、目を開けていられない。どっと倒れ伏した。

輪郭を取り戻し始めた景色のなかで、レイナをさがしていたユウリが、髪の長い、細いからだが葛折れているのを見つけて抱き起した。

レイナの顔は、みるみる血の気をうしなって白くなってゆく。

「レイナさま」

ユウリの声に、レイナうっすらと目を開けた。

その目がユウリをとらえる。

きっと真っ白な顔をしているだろう。

そう思ったが、存外に気持ちはおだやかで、かすかに微笑むことさえできた。


「ユウリ……」

「レイナさま」

「ちょっと無理をしすぎたみたいだ」

「しゃべらないでください、体に障りますから」

「今回はだめそうだよ。自分でわかる……」

「そんなことはありません。お願いですから、しゃべらないで」

レイナはさきほど夢にでてきた少年のユウリを思い浮かべた。彼はきっと、自分を止めにきたのだ。こうなることがわかっていて、止めに現れた。

レイナはユウリの肩を掴んだ。

「ユウリ、たのみがあるんだ……」

肩を掴む手に力をこめた。

「たのむから、冥土までは供はしてくれるなよ……そんなことをされてもうれしくない」

レイナは笑った。

「きみには生きてほしい。そして、好きなことをしてほしい……たのんだよ」

「何を言っているんです」

「承知したと言って。お願いだから」

レイナはじっとユウリの目を見た。ユウリはめずらしく、焦りや不安の入り混じった表情をしている。

普段は表情の乏しいユウリ、そのユウリが顔をこわばらせるほどに自分を心配してくれている。

もうそれだけで、十分だと思った。

十分に幸せだ。

これまで精いっぱい仕えてくれたくれたユウリを、もう自由にしてあげなければ。

レイナはユウリを見つめつづける。実際にはそれほどの間ではなかったかもしれないが、ユウリの言葉を待つレイナには、ずいぶんと長くかんじられた。



やがて、ユウリはこくんとうなずいて言った。

「わかりました、言いつけどおりに致します。ですから、もうしゃべらないで、体を休めてください、休まないと」

その言葉を聞いて、レイナはほっと息をついた。これで安心だ。ユウリは自分との約束をやぶったことはこれまで一度もない。

「うん、もうしゃべらないよ……ありがとう、ユウリ」

「すぐに軍医をよんできます」

「いい、ここにいて。このまま……」

「レイナさま」

「ありがとう……」


レイナはゆっくりと笑顔をつくると、そのまま目を閉じた。


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冬にねむる (7)

次の瞬間、レイナははっと目を覚ました。

背中に冷たい汗が流れる。

ごうっという地鳴りを、遠くに聞いたような気がした。


強張る体を無理に起こして、テントの外に転がり出た。

辺りは薄暗い。もうすぐ夜が明ける。

寝ずの番を残して、あとは皆夢の中にいるだろう。

レイナは声をふりしぼって叫んだ。

「敵襲だ!帝国軍が来るぞ!」

ほどなく、いくつもの銃声があたりにこだました。

わあ、っと人の気配が近づいてくる。

敵はあっという間に押し寄せて、宿営地を襲撃した。

味方の兵士たちは慌てふためき統率が取れない。

ばたり、ばたりと倒れてゆく。


それを見たレイナの思考はまたも真っ白になった。

両腕の紋様が熱くなる。

その感覚だけが妙に鮮明で。

そして、


辺りは一瞬、ただ一面の白の世界になった。

レイナの思考の中と同じように、光の波が一体を満たし、何ものの形もとらえられないくらいに。

その後、静寂が訪れた。


いつの間にか、太陽が昇り始めていた。

輪郭をとりもどした風景からは、帝国軍は一人残らず忽然と姿を消していた。

まるで光に呑まれてしまったかのように。

辺りには、呆然とするラスファイドの兵卒だけが残された。


(つづきへ→)

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オリジナルの読みもの公開ブログ。
ファンタジーが好き、ちょっとせつない読後感を目指す管理人がマイペースに書いております。

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