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ハトノユメ

自作小説ブログ

冬にねむる (6)

いつのまにか景色は森の中。湖をはなれ、うっそうとした樹木のなかを進んでいる。あたりはうす暗くなり、遠くは見えない。歩いていこうとしている方向は、今いるところよりもなおいっそう暗いようだ。

前を歩くユウリはふりむかない。さきほどから無言のまま、レイナをいざなってゆく。

「ねえ、ユウリ、どこまで行くの?この先にきれいな花が咲いているの?」

レイナはユウリのうしろ姿に問いかけた。ユウリが立ち止まってふりむく。

頬に一すじの光の線が見えた。

「ユウリ、泣いているの?」

その問いかけにユウリは答えない。代わりにレイナに抱きついた。少年のユウリは、レイナの腰のあたりにしがみつく。

「帰らないでください」

小さな声でそう言った。

レイナはユウリの肩に手をおく。

「帰るって、どこへ?」

「現実の世界へ」

ユウリはレイナの顔を見上げている。漆黒の瞳はすいこまれそうなほど澄んでいる。

「現実に帰ったら、あなたは身をほろぼしてしまうかもしれない。ぼくは、現実のぼくはきっと、それを止めることができない。だから、ここから帰らないでください」

「ユウリ」

レイナはしゃがみこんでユウリを抱きしめた。夢の中なのに、体温をかんじる。

「ユウリ、ありがとう。でも、私はもどらないといけない」

「レイナさま」

「夢からはいつかさめないといけない。現実を生きないといけない。確かに苦しいことばかりだけど、ここで逃げたらきっと後悔する」

ユウリを抱く腕に力をこめる。

「守りたいんだ。故郷を、君と暮らした場所を。きみとの大切な思い出を。だってきみは、私にとってかけがいのない人だから」

「レイナさま」

「現実のきみにも、そう伝えたいとずっと思っていたけれど。気恥ずかしくて、なかなか言えないままなんだ。感謝の気持ももっとうまく伝えられたらいいのに」

「……伝わっていますよ」

レイナはユウリの顔を見た。かすかにほほえんでいる。

「ちゃんと、伝わっています。ちゃんと……」


ユウリのすがたが急にゆらぎはじめる。
みるみる陰影をなくしていったかと思うと、黒いかたまりが現れ、それが小さくちぎれてつぎつぎと空へ舞い上がってゆく。

蝶だった。

黒羽の蝶が、四方へ飛び去る。

レイナも、自らがすがたをうしなってゆくのがわかった。

レイナは白羽の蝶となり、黒蝶を追うように空へと舞い上がる。


突如、雪崩にでも巻き込まれたかのように思考の中の情景がかき消された。

光の波が押し寄せてきて、すべてが、ただ真っ白になった。


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冬にねむる (5)

夢を見ていた。

いくつかの場面が断片的に現れては消える。

現実との境界を、浅い眠りとの間で彷徨っている。


昔の出来事、どこかで見た景色、全くの空想の産物。

そして時折混じる、未来の出来事と思われるもの。


回転木馬に乗り続けているように、ぐるぐる、ぐるぐる、現れては消え、忘れた頃にまた顔をのぞかせる夢のかけら。情報の洪水。

めまいがしそうな場面転換。



ふいに目の前が開けた。見晴らしのよい場所。

晴れ渡った空。

美しく光を反射する湖のほとりに、ユウリが佇んでいる。ユウリはこちらをふりむくとかすかに笑った。

まだ少年のころのユウリの顔だった。

これはいつの思い出だろう。子供のころに行った避暑地での光景だろうか。それとも、自分が勝手に作りだしているものだろうか。

どちらなのか定かではない。しかし、今見ている光景がとても美しいのは確かだ。

このところ夢にでてきていたのは、どれもあまり良い光景ではなかった。昔の出来事でも、嫌なことばかりが現れた。

それに比べ、今夢に見ているのは何とも心地よい風景だ。


少年のユウリがこちらに近づいてくる。白い半そでシャツがよく似合っている。黒髪をかすかな風にゆらされながら、まっすぐこちらに歩いてくる。

ユウリは目の前までくると、湖のむこうを指さした。

「あっちに、とてもきれいな花が咲いていましたよ。いっしょに見にいきましょう」

ユウリはレイナの手をとって歩きはじめた。少年のユウリが、大人のレイナを連れてゆく。

しばらく水際を歩いた。草が生い茂るなかを、ユウリは迷いなく進む。二人のほかには人の姿はない。それどころか、ほかの生き物の気配さえ感じられない、静寂の世界。やはり現実とはちがう。

レイナが生み出した世界のなかで、二人だけで美しい景色を見て歩く。

これはきっと、自分の願望なのだろう。

ユウリと二人で、どこか知らない土地を旅してみたい。思い出を共有していたい。半身を、失いたくない。


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冬にねむる (4)

ふいに、ユウリが目を開けた。

「レイナ様、お休みになるのではなかったのですか。目を開けたまま眠るおつもりですか」

「ああ、ごめん。やっぱり眠れなくて」

「……困った方だ」

ユウリは言葉に反して少し笑った。

「ねえ、ユウリ、きみはこの戦いが終わったらどうするつもり?」

「どうする、とは?」

「身のふりかたってことだよ。アレイス家に戻る?」

「ぼくは、レイナ様が行かれるところに行きます」

ユウリは即答した。

「……大学は?復学するだろう?」

「さあ、どうでしょうか」

「勉強は、できる限りしておいたほうがいいよ。機会があるならなおさらだ」

「レイナ様は?以前はしきりに大学に進学したいと仰ってましたよね」

レイナはそう聞かれて視線を天井へと移した。

二人で大学へ通う姿を思い浮かべてみる。

悪くない。

「うん、私も行きたい」

「一緒に行きましょう」

「……そうだね」

もう一度ユウリのほうを見ると、その表情はさきほどよりもさらに笑顔が強まっていた。

「レイナ様」

「なに?」

「この戦いが終わったら、お話したいことがあるんです」

「今じゃだめ?」

「もっと落ち着いた状態でお話したいので」

「そう……うん、わたしも、きみに話したいことがある。この戦いが終わったら」

「わかりました」


テントの外から、ユウリを呼ぶ声がかかった。

ユウリはそれに短い応答をすると、「では、任務にもどります」と言い置いてテントを出て行った。

レイナはその姿を記憶にやきつける。


忘れてしまわないように。


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冬にねむる (3)

「ありがとう。ねえユウリ、きみも休んだほうがいいよ」

「ぼくは大丈夫ですよ」

「嘘つけ、顔色が悪い。ちゃんと眠ってないんだろう」

「レイナ様ほどではありませんよ」

「よく言うよ。まあ、いい勝負だろうね。わかった、わたしは少し眠らせてもらうよ。きみも、目を瞑るくらいはしておいたほうがよい。それだけでも少しは疲れがとれるかもしれない」

「承知しました」

兵士たちの疲労はかなりのものだ。もうかなりの時間を山中で過ごし、帝国軍との接触が幾度もあった。

疲弊しているのは、山頂を挟んで反対側の山腹にいるであろう帝国軍も同じ。双方とも、もうそれほど長い時間はかけられない。

決戦が近いのではないか。

そう思って、レイナは目を開けると傍らのユウリを見た。

ユウリは言われたとおりに目を瞑って座っている。

人形のように端正な顔立ち。だが今はその造作の良さよりも、血の気のなさがよほど目につく。


ユウリの顔を、あとどのくらい見ていられるだろう。

レイナは与えられた秘術が予想以上に体を蝕んでいくのを自覚している。

乱用は慎むべきと戒めてはいるが、仲間の危機を目の前にするとそんなことを言ってばかりもいられない。力を使っては、反動で体の自由が利かなくなるということが多くなっている。

このまま戦いが長引けば、身を滅ぼすことがあるかもしれないと、この頃強く意識するようになっていた。

それでも戦線離脱はできない。ラスファイドが帝国に占領されてしまえば、それこそ未来など思い描けぬ時代がやってくるだろう。


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冬にねむる (2)

日没後。

山の中腹におかれた駐屯地には、明日に備えて束の間の休息をとる兵士たちの炊き出しの準備がすすめられている。

ひしめく兵士たちの合間に、いくつかテントが設置されている。

その一つをあてがわれているレイナは、浅い眠りのなかにいた。

蓄積した疲労から体は睡眠を求めているのだが、それに反して高ぶった神経はなかなか寝付かせてはくれない。表層をなぞるようなごく浅い眠りと覚醒を先程から繰り返している。

「失礼します」

テントの外から声がかかったが、レイナはすぐには起き上がることができなかった。

そのうちにテントの幕をたくし上げて、ユウリが中に入ってきた。

「お加減が悪いのですか?」

まだ起き上がることができずにいるレイナに、ユウリが心配そうに声をかけてくる。

「少し疲れたみたいだ。情けないけど、しばらく起き上がれそうにない」

枕元に腰を下ろしたユウリに向かって苦笑いをしてみせる。

「紋様の力を使いすぎているんですよ。かなり負担がかかるのでしょう」

「でも、今使わないで、いつ使うんだ、この力」

「お気持ちはわかりますが……とにかく休んでください。ぼくが番をしておりますから、少し睡眠をとったほうが」

そう言って、ユウリは端にたたんであった毛布を取ってレイナにかけてくれた。


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ファンタジーが好き、ちょっとせつない読後感を目指す管理人がマイペースに書いております。

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