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ハトノユメ

自作小説ブログ

夏にたびだつ (3)

全体が大きな斜面に貼りつくように作られているラスファイドの都。

町は上のほうから形成されていき、時が経つにつれて古くなる建物を捨て去るように下方へと広がり、町の中心も徐々に斜面を下っていった。


王宮も以前は斜面の一番上にあったが、老朽化を理由に斜面の中腹へと移っている。

レイナの生家であるアレイス家の邸宅も、王宮から程近い場所にある。周りはみな有力貴族が邸宅を構える界隈。そこからさらに下ると、繁華街や、一般市民の住宅地が広がっている。そのあたりは多くの人が行き交う活気にあふれたところである。


対して、坂の上に残る古い町並は、かつての賑わいをわずかに偲ばせる色褪せたレンガの壁が連なり、静かではあるが重厚な空気を感じる。

人影の少ない古町は、物思いにふけるにはちょうど良い場所。

レイナはその古町のレンガの壁に背中を預けて座っている。

小高い丘のようになっている地点で、目の前は五歩ほど進めばほぼ垂直な切り立った崖。

眼下に都を一望できるこの場所は、レイナの一番気に入っているところだ。

学生時代、講義のあとによく立ち寄った。

何をするでもなく、この場所に座って景色を眺める。


傍らにはいつもユウリがいた。

共に景色を眺め、ゆっくりと過ぎる時間を楽しんだものだ。

もう戻らない、なつかしい日々。


レイナはふいに空を見上げた。

夏のつき抜けるような鮮やかな青空がひろがっている。

この空の色だけは、あの頃と変わらない。

ずっと見つめているとすいこまれてしまいそうな錯覚に陥る。

追憶の中に引き戻されていくような、奇妙な浮遊感。

悪くない。


しばらく空を眺めていると、遠くから足音が聞こえてきた。

石畳を蹴るその音は、軽快で小気味よい。

少しずつレイナのいるところへと近づいてくる。

その音がはっきりとしてくるにつれて、レイナの意識も現実へと戻ってくる。

レイナにはすぐに足音の主がだれかわかった。


こんな場所までやってくる者はレイナの思いつく限りひとりだけ。

ここは通りから外れた古い民家の、さらに裏手にいりくんだ場所で、手入れされずに放置され、雑草の生い茂る狭い通路を通らなければ辿りつけない。今では空き家だらけになっている古町にあって、めったに人の出入りするような場所ではない。


足音はレイナから三歩ほどの位置で止まった。

「さがしました。ここにいらしたんですね」

予想通りのユウリの声。穏やかな声。

レイナが見やると、ユウリは珍しく額にうっすらと汗を浮かべている。

どういう鍛錬の仕方をしているのか、普段はあまり汗をかかない。

レイナの姿が見えないので、方々をだいぶ探し回ってくれたのだろう。

そのことが、妙にうれしかった。でも、口にはしなかった。


目の前のユウリの瞳は、ラスファイドの都の上を今まさに覆っている、夏の空と同じ色をしている。その瞳がじっとこちらを見ていた。

すいこまれそうだった。


(つづきへ→)

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