■ アルバトロスが飛んでゆく --もくじ--
--あらすじ--
才能に恵まれたアルバトロス。
軽やかに飛ぶさまは、人の記憶に強い印象を刻む。
そんな少年パイロットの抱える葛藤。
--なぜぼくは、たたかうのか?
last up date 2010/02/13 【完結しました】
【1章】
転籍 (1)
転籍 (2)
転籍 (3)
転籍 (4)
【2章】
僚機 (1)
僚機 (2)
僚機 (3)
僚機 (4)
僚機 (5)
僚機 (6)
【3章】
鼎談 (1)
鼎談 (2)
鼎談 (3)
鼎談 (4)
鼎談 (5)
【4章】
潜入 (1)
潜入 (2)
潜入 (3)
潜入 (4)
潜入 (5)
【5章】
邂逅 (1)
邂逅 (2)
邂逅 (3)
邂逅 (4)
【6章】
飛翔 (1)
飛翔 (2)
飛翔 (3)
飛翔 (4)
【7章】
回帰 (1)
回帰 (2)
回帰 (3)
回帰 (4)
才能に恵まれたアルバトロス。
軽やかに飛ぶさまは、人の記憶に強い印象を刻む。
そんな少年パイロットの抱える葛藤。
--なぜぼくは、たたかうのか?
last up date 2010/02/13 【完結しました】
【1章】
転籍 (1)
転籍 (2)
転籍 (3)
転籍 (4)
【2章】
僚機 (1)
僚機 (2)
僚機 (3)
僚機 (4)
僚機 (5)
僚機 (6)
【3章】
鼎談 (1)
鼎談 (2)
鼎談 (3)
鼎談 (4)
鼎談 (5)
【4章】
潜入 (1)
潜入 (2)
潜入 (3)
潜入 (4)
潜入 (5)
【5章】
邂逅 (1)
邂逅 (2)
邂逅 (3)
邂逅 (4)
【6章】
飛翔 (1)
飛翔 (2)
飛翔 (3)
飛翔 (4)
【7章】
回帰 (1)
回帰 (2)
回帰 (3)
回帰 (4)

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■ 転籍 (1)
空と海の間を、飛行機がひとつ飛んでゆく。
その飛び方は非常に滑らかで、あらゆる抵抗や重力などないかのようだ。
--ほら見てごらん、あれはきっとアルバトロスの飛行機だ。
彼以外にあんなふうに飛べる乗り手はいないよ。
なんて優雅に飛ぶんだろう。
うらやましいね。
まるで鳥のように、なんの苦もなく浮かぶ機体は徐々に遠ざかってゆく。
--アルバトロスは不思議な子だね。
飛んでいないときはとりたてて目立つような子じゃあないのに。
それが飛行機に乗るとまるで人が変わったようにほかとは一味違った飛び方をする。
日は傾き、空と海は色を変える。
--ねえ、アルバトロスってどういう意味
--鳥の名前だよ。かつて僕らの祖先が住んでいた星にいたそうだ。
大空をそれは優雅に飛んだんだってさ。
--へえ。鳥みたいに飛べるから、アルバトロスって呼ばれているのかしら。
--きっとそうだね。彼の本当の名は誰も知らない。
豆粒のように小さくなった飛行機が、まぶしい黄金色をした水平線の彼方にすいこまれていった。
------
アルバトロスはひとり、新しく配属されることになった基地を目指して飛んでいる。
突然の異動命令だった。安穏とした生活の中にもらたされたそれは、凪の海に降ってきた、雨の一滴のようなもの。ぽつんと着地した瞬間から、波が生まれ、じわじわとひろがってゆく。眠っていたような毎日から、徐々に目が覚めてゆく感覚。上官から急き立てられるまま、小さな荷物をまとめ、命令のあったその日のうちに飛び立ったのだった。
久しくなかった長距離飛行ではあるが、国内のみの航路はさして危険があるはずもない。それでも周囲の確認を事細かにしてしまうのは、性分というものだ。
アルバトロスは、新しい基地のことを考えた。前線の基地だと聞いた。これまで配属になっていた辺境の基地とは比較にならないくらい戦闘任務は増えるのだろう。
自分はまだ戦えるのだろうかと、不安がよぎる。
そして、あの質問を思い出す。
なぜ、戦うのか。
そう聞かれたとき即答できない自分が、日々戦闘任務に明け暮れていたことに違和感をおぼえた。
それは今もアルバトロスのなかにしこりのように残っている。
答えは、まだでていない。
迷いを抱えたまま、アルバトロスは飛んでゆく。
(つづきへ→)
その飛び方は非常に滑らかで、あらゆる抵抗や重力などないかのようだ。
--ほら見てごらん、あれはきっとアルバトロスの飛行機だ。
彼以外にあんなふうに飛べる乗り手はいないよ。
なんて優雅に飛ぶんだろう。
うらやましいね。
まるで鳥のように、なんの苦もなく浮かぶ機体は徐々に遠ざかってゆく。
--アルバトロスは不思議な子だね。
飛んでいないときはとりたてて目立つような子じゃあないのに。
それが飛行機に乗るとまるで人が変わったようにほかとは一味違った飛び方をする。
日は傾き、空と海は色を変える。
--ねえ、アルバトロスってどういう意味
--鳥の名前だよ。かつて僕らの祖先が住んでいた星にいたそうだ。
大空をそれは優雅に飛んだんだってさ。
--へえ。鳥みたいに飛べるから、アルバトロスって呼ばれているのかしら。
--きっとそうだね。彼の本当の名は誰も知らない。
豆粒のように小さくなった飛行機が、まぶしい黄金色をした水平線の彼方にすいこまれていった。
------
アルバトロスはひとり、新しく配属されることになった基地を目指して飛んでいる。
突然の異動命令だった。安穏とした生活の中にもらたされたそれは、凪の海に降ってきた、雨の一滴のようなもの。ぽつんと着地した瞬間から、波が生まれ、じわじわとひろがってゆく。眠っていたような毎日から、徐々に目が覚めてゆく感覚。上官から急き立てられるまま、小さな荷物をまとめ、命令のあったその日のうちに飛び立ったのだった。
久しくなかった長距離飛行ではあるが、国内のみの航路はさして危険があるはずもない。それでも周囲の確認を事細かにしてしまうのは、性分というものだ。
アルバトロスは、新しい基地のことを考えた。前線の基地だと聞いた。これまで配属になっていた辺境の基地とは比較にならないくらい戦闘任務は増えるのだろう。
自分はまだ戦えるのだろうかと、不安がよぎる。
そして、あの質問を思い出す。
なぜ、戦うのか。
そう聞かれたとき即答できない自分が、日々戦闘任務に明け暮れていたことに違和感をおぼえた。
それは今もアルバトロスのなかにしこりのように残っている。
答えは、まだでていない。
迷いを抱えたまま、アルバトロスは飛んでゆく。
(つづきへ→)
■ 転籍 (2)
「さすがだね」
コックピットを降りたアルバトロスに、同僚のバーディが声をかけてきた。
「きみは重力ってのをかんじないのかい」
バーディの問いにアルバトロスは無言のまま、ヘルメットをわきに抱えて休憩所のほうへと歩いてゆく。そのあとを追ってバーディも歩きだす。
「何だい、ずいぶん冷たいな。少しは会話をする気ないの」
バーディはアルバトロスの背中に声をかけつづける。
休憩所の手前まで進んだところで、アルバトロスはバーディのほうを見た。
「バーディ、ぼくのどがかわいてて。話はなにかのんでからでいい?」
ゆっくりと話すアルバトロスに、バーディは渋い顔をした。
「やっとしゃべったと思ったらそんなことかい。それなら最初に言えばいいのに」
「ごめん」
「まあいいさ、やっときみの声を聞けたから。さあ、何かのもう。ぼくものどがかわいたよ」
休憩所の奥の席で、ふたりはテーブルをはさんで向かい合ってこしかけた。
アルバトロスはミントいりのレモン水をのむ。からからに乾いたのどに清涼な風味がしみる。
バーディは冷えた紅茶をごくごくとのんだ。
「どう、もうこのチームには慣れた?」
紅茶をすぐにのみ干したバーディはまた話をはじめた。
彼はひまがあればひっきりなしに話をしている性質のようだ。
「どうかな、まだまだだと思う」
レモン水をのむ合間にアルバトロスが答える。
アルバトロスが辺境の基地をはなれ、前線にちかい今の小隊に異動になったのは二週間ほどまえのことだ。その後何度が偵察飛行にでていたが、チームの全容を知りえるほどの数はとうていこなせていない。敵機との遭遇もまだなかった。
同僚とのコミュニケーションもそれほどない。内気で寡黙な性質のアルバトロスは人の輪に積極的にはいっていくほうではなく、うちとけるには時間がかかる。
このチームでまともに話をしたのはバーディだけかもしれない。三日前に出向先から戻ってきたバーディは、新入りが珍しいのかさかんに話かけてくる。彼の口からこのチームの在りようを少しずつ知ることができた。
「一応前線にはあるけどさ、普段のこの基地は周辺の偵察任務がほとんどの緊迫感のうすいところだよ。でもこのところいつもとちがう動きがあるから何かあるのかもしれないね」
バーディはおかわりの紅茶をもらい、それを手にしながら話す。コップの中の氷がカラカラと音をたてている。
「きみが呼ばれたっていうんで、この基地の連中はみんな浮足立ってたよ。ああ、ぼくが出向先に行く少し前の話。きみの腕はこのあたりでも有名だからね。凄腕だって語り草になってるコンドルっていうパイロットに匹敵するって上官も言ってたことがあるくらいだし」
その言葉にアルバトロスは困り顔になる。
「それはいくらなんでも褒めすぎだよ。コンドルになんて、到底足元にも及ばないよ、ぼくは」
(つづきへ→)
コックピットを降りたアルバトロスに、同僚のバーディが声をかけてきた。
「きみは重力ってのをかんじないのかい」
バーディの問いにアルバトロスは無言のまま、ヘルメットをわきに抱えて休憩所のほうへと歩いてゆく。そのあとを追ってバーディも歩きだす。
「何だい、ずいぶん冷たいな。少しは会話をする気ないの」
バーディはアルバトロスの背中に声をかけつづける。
休憩所の手前まで進んだところで、アルバトロスはバーディのほうを見た。
「バーディ、ぼくのどがかわいてて。話はなにかのんでからでいい?」
ゆっくりと話すアルバトロスに、バーディは渋い顔をした。
「やっとしゃべったと思ったらそんなことかい。それなら最初に言えばいいのに」
「ごめん」
「まあいいさ、やっときみの声を聞けたから。さあ、何かのもう。ぼくものどがかわいたよ」
休憩所の奥の席で、ふたりはテーブルをはさんで向かい合ってこしかけた。
アルバトロスはミントいりのレモン水をのむ。からからに乾いたのどに清涼な風味がしみる。
バーディは冷えた紅茶をごくごくとのんだ。
「どう、もうこのチームには慣れた?」
紅茶をすぐにのみ干したバーディはまた話をはじめた。
彼はひまがあればひっきりなしに話をしている性質のようだ。
「どうかな、まだまだだと思う」
レモン水をのむ合間にアルバトロスが答える。
アルバトロスが辺境の基地をはなれ、前線にちかい今の小隊に異動になったのは二週間ほどまえのことだ。その後何度が偵察飛行にでていたが、チームの全容を知りえるほどの数はとうていこなせていない。敵機との遭遇もまだなかった。
同僚とのコミュニケーションもそれほどない。内気で寡黙な性質のアルバトロスは人の輪に積極的にはいっていくほうではなく、うちとけるには時間がかかる。
このチームでまともに話をしたのはバーディだけかもしれない。三日前に出向先から戻ってきたバーディは、新入りが珍しいのかさかんに話かけてくる。彼の口からこのチームの在りようを少しずつ知ることができた。
「一応前線にはあるけどさ、普段のこの基地は周辺の偵察任務がほとんどの緊迫感のうすいところだよ。でもこのところいつもとちがう動きがあるから何かあるのかもしれないね」
バーディはおかわりの紅茶をもらい、それを手にしながら話す。コップの中の氷がカラカラと音をたてている。
「きみが呼ばれたっていうんで、この基地の連中はみんな浮足立ってたよ。ああ、ぼくが出向先に行く少し前の話。きみの腕はこのあたりでも有名だからね。凄腕だって語り草になってるコンドルっていうパイロットに匹敵するって上官も言ってたことがあるくらいだし」
その言葉にアルバトロスは困り顔になる。
「それはいくらなんでも褒めすぎだよ。コンドルになんて、到底足元にも及ばないよ、ぼくは」
(つづきへ→)
■ 転籍 (3)
コンドルは、凄腕のパイロットとして有名な人物だ。
パイロット仲間だけでなく、ひろく世間一般にまで名前を知られている。子供はともかく、大人ならたいていその名を知っている。さきの大戦のときにめざましい活躍をした人で、ひとりで千機墜としたという噂があるほどだ。千機は大げさだとしても、先の大戦のときにこの国に多大な貢献をしたのは事実だろう。
コンドルは十年ほど前まで第一線で活動していたが、あるときぱったりと姿を消し、以後消息不明となっている。どこかで墜とされたんだという人もいれば、飛びすぎた挙句地上に戻れなくなり今も空にいるんだというようなことをいう人までいる。
そんないわば英雄を引き合いに出されても困るな、とアルバトロスは思った。対して、どうやらコンドルをくわしくは知らないらしいバーディは気に留めるようなそぶりはない。「それにしてもさ」と別の話を進めはじめた。
「きみの前にいたところ、ずいぶん辺鄙なところだったんだね。なんできみみたいなのがあんな基地ににいたんだろうって思ったけど、ずいぶんひどいけがをして転籍になったんだってほんとう?」
バーディはまた紅茶をがぶがぶのむ。ついでに氷をがりがりと食べはじめた。アルバトロスはそのようすをながめながらゆっくりと口を開いた。
「うん、最初はしばらく療養しろといわれてあの基地に移ったよ。でもけがが治ったあともほかへ行けとは言われなかったから、左遷だと思った。もう前線にもどることはないだろうなって」
「まさか。きみの腕を上層部が使わないわけないだろう」
「買いかぶりすぎだ。それにぼくは団体行動が苦手だから、みんなの足並みを乱すのが心配なのかもしれないよ、上のひとは」
「ああ、それならここは大丈夫だよ。もともと団体行動とは無縁のやつらばかり集まってるから。その筆頭がほら、あそこに座っている」
バーディは少しはなれたところにいる栗毛の少年のほうへ視線をなげた。こちらに背を向けて座っている。
「イーグル?だったよね」
「そう。どうしようもないくらい単独行動好きのイーグル」
「腕はいいんでしょ?」
「まあね、ここではピカイチ」
「きみだってかなりのものでしょ。ほかに出向するくらいだもの」
「そんなことないよ」
バーディは少してれたような顔をした。
「あいつ、イーグルもついこの間まで長いこと出向してたんだよ。ぼくが出た時はまだ戻ってきてなかった。あいつも最近になって急きょ呼び戻されたんだ」
「じゃあ、ぼくがここへくるほんの少し前に戻ってきたってことか」
「そういうこと。こんなに急に人数をそろえだすなんて妙だろ。何かあるよ」
「そうかもしれない」
アルバトロスはようやくレモン水をのみ終えた。
イーグルはこちらの様子にはまったず気づくことなく煙草をすいはじめた。
(つづきへ→)
パイロット仲間だけでなく、ひろく世間一般にまで名前を知られている。子供はともかく、大人ならたいていその名を知っている。さきの大戦のときにめざましい活躍をした人で、ひとりで千機墜としたという噂があるほどだ。千機は大げさだとしても、先の大戦のときにこの国に多大な貢献をしたのは事実だろう。
コンドルは十年ほど前まで第一線で活動していたが、あるときぱったりと姿を消し、以後消息不明となっている。どこかで墜とされたんだという人もいれば、飛びすぎた挙句地上に戻れなくなり今も空にいるんだというようなことをいう人までいる。
そんないわば英雄を引き合いに出されても困るな、とアルバトロスは思った。対して、どうやらコンドルをくわしくは知らないらしいバーディは気に留めるようなそぶりはない。「それにしてもさ」と別の話を進めはじめた。
「きみの前にいたところ、ずいぶん辺鄙なところだったんだね。なんできみみたいなのがあんな基地ににいたんだろうって思ったけど、ずいぶんひどいけがをして転籍になったんだってほんとう?」
バーディはまた紅茶をがぶがぶのむ。ついでに氷をがりがりと食べはじめた。アルバトロスはそのようすをながめながらゆっくりと口を開いた。
「うん、最初はしばらく療養しろといわれてあの基地に移ったよ。でもけがが治ったあともほかへ行けとは言われなかったから、左遷だと思った。もう前線にもどることはないだろうなって」
「まさか。きみの腕を上層部が使わないわけないだろう」
「買いかぶりすぎだ。それにぼくは団体行動が苦手だから、みんなの足並みを乱すのが心配なのかもしれないよ、上のひとは」
「ああ、それならここは大丈夫だよ。もともと団体行動とは無縁のやつらばかり集まってるから。その筆頭がほら、あそこに座っている」
バーディは少しはなれたところにいる栗毛の少年のほうへ視線をなげた。こちらに背を向けて座っている。
「イーグル?だったよね」
「そう。どうしようもないくらい単独行動好きのイーグル」
「腕はいいんでしょ?」
「まあね、ここではピカイチ」
「きみだってかなりのものでしょ。ほかに出向するくらいだもの」
「そんなことないよ」
バーディは少してれたような顔をした。
「あいつ、イーグルもついこの間まで長いこと出向してたんだよ。ぼくが出た時はまだ戻ってきてなかった。あいつも最近になって急きょ呼び戻されたんだ」
「じゃあ、ぼくがここへくるほんの少し前に戻ってきたってことか」
「そういうこと。こんなに急に人数をそろえだすなんて妙だろ。何かあるよ」
「そうかもしれない」
アルバトロスはようやくレモン水をのみ終えた。
イーグルはこちらの様子にはまったず気づくことなく煙草をすいはじめた。
(つづきへ→)
■ 転籍 (4)
そのあとすぐ、バーディに偵察飛行の命令があった。バーディは「話し足りない」と言いながらあわただしく休憩室を去っていく。
アルバトロスは自分とバーディが使っていたコップを片付けて休憩室をでた。近くの階段を上って屋上へでることにする。そこからは滑走路が一望できる。
アルバトロスが屋上へでたのとほぼ同時に、バーディが離陸していった。
少しだけ尾翼を左右にふって飛ぶ姿は愛嬌がある。さきほどの多弁な彼と印象が重なった。そのあとにもう一機がつづいて離陸してゆく。
あっという間に二機は小さくなっていった。
「あいかわらず落ち着きのない飛び方をするやつだ」
アルバトロスのうしろから声が聞こえた。ふりかえると、声の主はさきほど話題にのぼっていたイーグルだった。
「ちょこまかとよく動く。地上にいるときと同じだな」
イーグルはそう言いながらアルバトロスの隣まで歩いてきた。胸ポケットから煙草の箱を取りだし、アルバトロスのほうへむける。
「いや、ぼくはすわないんだ」
アルバトロスはゆっくりと首をふる。イーグルは「そう」と小さく言って煙草に火をつけた。
イーグルのはいた煙が輪になって空へと飛んでゆくのをぼんやりながめた。砂糖衣のかかったドーナツのようだと思った。そういえば、最近食べていない。バーディがもどってきたら、近くにドーナツを売っている店があるかどうか聞いてみよう。そんなことを考えていると、イーグルが「大丈夫なのか?」と唐突に訊ねてきた。
アルバトロスは質問の意味がわからず「何が」と問いかえす。
「前にいたところはずいぶん辺鄙なところだったらしいじゃないか。戦闘任務なんかなかっただろう?ブランクがあって大丈夫なのかって意味だよ」
イーグルは横目でアルバトロスのほうを見ながら言った。近くに置かれている灰皿に吸いがらを放りこむと、すぐさま新しい煙草に火をつけた。
「あんたの噂は聞いていた。そうとうすごいってどこへ行っても言われた。名前は忘れたけど、伝説のパイロットだっていう何とかってやつに勝るとも劣らないってさ。でも実際あんたを見ると、正直そんなにすごいようには思えない」
イーグルは思ったことを率直に口にする性質らしい。表情を変えることもなくつけつけと言ってのける。
しかしながらその言葉は的を射ていた。アルバトロスは、イーグルの言っていることはもっともだと思いながら、その手元から生まれるうすむらさきの煙が空を漂うのを目で追った。先ほどとは風向きが変わってきている。
「噂が独り歩きしているんだよ。別にすごくない。その上、きみが言ったとおりブランクはある。戦闘任務なんてずいぶんやってない。大丈夫かって聞かれると、断言はできない」
アルバトロスはそう答えた。それしか今の段階ではいえない。本当に戦闘任務に耐えうるかどうか、自分でも確信はない。
「たよりないな」
「ごめん」
滑走路の脇に飛行機がでてきた。これから飛び立つのだろう。その様子をしばし無言で観察する。ほどなく、管制塔からの離陸許可がおりたらしいその機体は空へとすいこまれていった。
「まあ、虚勢をはらないってのはある意味長所ともとれるか」
イーグルはそう言うと二本目の吸いがらも灰皿へ放りこみ、階段のほうへと歩きだした。一段目を降りる直前でアルバトロスのほうをふりかえり、
「早いとこ勘をとりもどしてくれよ。噂が嘘じゃないって証明してみせてくれ」
と言い残していった。
イーグルが去ったあとの屋上で、アルバトロスは片隅のベンチに腰かけるとしばらくの間ぼんやりと空を見上げていた。
(つづきへ→)
アルバトロスは自分とバーディが使っていたコップを片付けて休憩室をでた。近くの階段を上って屋上へでることにする。そこからは滑走路が一望できる。
アルバトロスが屋上へでたのとほぼ同時に、バーディが離陸していった。
少しだけ尾翼を左右にふって飛ぶ姿は愛嬌がある。さきほどの多弁な彼と印象が重なった。そのあとにもう一機がつづいて離陸してゆく。
あっという間に二機は小さくなっていった。
「あいかわらず落ち着きのない飛び方をするやつだ」
アルバトロスのうしろから声が聞こえた。ふりかえると、声の主はさきほど話題にのぼっていたイーグルだった。
「ちょこまかとよく動く。地上にいるときと同じだな」
イーグルはそう言いながらアルバトロスの隣まで歩いてきた。胸ポケットから煙草の箱を取りだし、アルバトロスのほうへむける。
「いや、ぼくはすわないんだ」
アルバトロスはゆっくりと首をふる。イーグルは「そう」と小さく言って煙草に火をつけた。
イーグルのはいた煙が輪になって空へと飛んでゆくのをぼんやりながめた。砂糖衣のかかったドーナツのようだと思った。そういえば、最近食べていない。バーディがもどってきたら、近くにドーナツを売っている店があるかどうか聞いてみよう。そんなことを考えていると、イーグルが「大丈夫なのか?」と唐突に訊ねてきた。
アルバトロスは質問の意味がわからず「何が」と問いかえす。
「前にいたところはずいぶん辺鄙なところだったらしいじゃないか。戦闘任務なんかなかっただろう?ブランクがあって大丈夫なのかって意味だよ」
イーグルは横目でアルバトロスのほうを見ながら言った。近くに置かれている灰皿に吸いがらを放りこむと、すぐさま新しい煙草に火をつけた。
「あんたの噂は聞いていた。そうとうすごいってどこへ行っても言われた。名前は忘れたけど、伝説のパイロットだっていう何とかってやつに勝るとも劣らないってさ。でも実際あんたを見ると、正直そんなにすごいようには思えない」
イーグルは思ったことを率直に口にする性質らしい。表情を変えることもなくつけつけと言ってのける。
しかしながらその言葉は的を射ていた。アルバトロスは、イーグルの言っていることはもっともだと思いながら、その手元から生まれるうすむらさきの煙が空を漂うのを目で追った。先ほどとは風向きが変わってきている。
「噂が独り歩きしているんだよ。別にすごくない。その上、きみが言ったとおりブランクはある。戦闘任務なんてずいぶんやってない。大丈夫かって聞かれると、断言はできない」
アルバトロスはそう答えた。それしか今の段階ではいえない。本当に戦闘任務に耐えうるかどうか、自分でも確信はない。
「たよりないな」
「ごめん」
滑走路の脇に飛行機がでてきた。これから飛び立つのだろう。その様子をしばし無言で観察する。ほどなく、管制塔からの離陸許可がおりたらしいその機体は空へとすいこまれていった。
「まあ、虚勢をはらないってのはある意味長所ともとれるか」
イーグルはそう言うと二本目の吸いがらも灰皿へ放りこみ、階段のほうへと歩きだした。一段目を降りる直前でアルバトロスのほうをふりかえり、
「早いとこ勘をとりもどしてくれよ。噂が嘘じゃないって証明してみせてくれ」
と言い残していった。
イーグルが去ったあとの屋上で、アルバトロスは片隅のベンチに腰かけるとしばらくの間ぼんやりと空を見上げていた。
(つづきへ→)