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ハトノユメ

自作小説ブログ

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夏にたびだつ (1)

むせかえる緑、まぶしい日の光。

ラスファイドに短い夏が来た。

石畳の道には両脇に街路樹が立ち並んでいる。それは真上から照りつける太陽をさえぎり、ほんのわずかではあるがひんやりとした日陰を路の脇に作り出してくれる。


その道を、レイナはひとり、大きな歩幅ですたすたと歩いてゆく。

日傘を差すこともせず、日陰を選ぼうともせず、まっすぐに歩いた。

その歩き方は、自分の決めた目標に向かってまっすぐに進んでいこうとする気質、一度目標を狙い定めたらめったなことではわき目を振らないレイナの性格をよくあらわしている。

屋敷内で大切に大切に育てられた他家の貴族の令嬢たちにはあまりみられない意志の強さ。

生まれ持った気質に加え、幼少の頃から剣術の修練に励み、大勢の男子学生に混じって士官学校で学んだという経験が、レイナをより力強くしたように思える。

士官学校を卒業後、しばらくは屋敷でひっそりとした暮らしを送ってきた。兄から課せられた貴婦人らしくなるための訓練も気は進まないながらもこなしていた。

だが、それも今日限りになりそうだ。


レイナはつい先程、兄の前で自分の考えをぶちまけてきてしまった。

途中で制止されないようにと、ありったけの言葉を途切れることなく発し続けた。

全部発散してしまったあとは、レイナのあまりの饒舌に目を見開いて沈黙する兄を残して屋敷を出てきてしまった。

もう戻れないかもしれない、とは思ったが、悪い気分ではなかった。


白いシャツに麻のズボンというレイナの服装は、ラスファイドでは青年男子が良く纏う夏の装いである。レイナにとっては動きやすいかどうかというのが衣服を選ぶときの一番重要なこと。

淡い色の髪を、一本の三つ編みにしている。短く切りそろえてしまおうかと思ったが、せっかく背中まで伸ばしたのでもったいないと思い直してしばらく束ねておくことにした。

ズボンをはいたその姿は、快活そうなレイナをより活動的にみせている。

佩いている剣は、兄から取り戻した愛用の品。

これからは、この剣をたよりに生きねば。

レイナは柄を強く握り締めた。


(つづきへ→)


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夏にたびだつ (2)

ラスファイドと隣国との間に、不穏な空気がある。


そのことが、このところずっとレイナの心をとらえ続けていた。

屋敷内でじっとしている自分に疑問を感じて、悶々としてすごす日々。

それでも何とか折り合いをつけようとしつつあったが、先日偶然耳にしたことが、レイナを今回の行動へと駆り立てた。



国境近くに、隣国の軍現る。

情勢は一気に緊迫しつつあった。

------

ラスファイドは半島に突き出た小さな王国である。

北、南、西の三方を海に囲まれており、近海で水揚される海産物を商うことを主な収入源としている。

また豊富な鉱物資源も有しており、小さいながらも財政面は豊かな国である。

かといってラスファイドは安穏としていられるかといえば、決してそんなことなはない。

王国の東側は、広大な国土を有する大帝国アルカダイアと国境を接しているのである。アルカダイアと比べると、ラスファイドは爪の先ほどの小さな国土しか持ち合わせていない。

こんな立地にも関わらず、ラスファイドが帝国の侵略を免れ独立を保ってこられたのは、国境に沿って延々と続く、天にも届くと評されるほどの険しい山岳と、複雑に入り乱れる半島近海の海流の恩恵によるものだろう。

帝国は過去に何度か侵攻を試みたがことごとく失敗に終っている。

五十年ほど前に講和条約を結んでからはこれといった動きはみせていなかった。


それが、ここへきての突然の出兵。

今の帝国は、もしかしたらあの険しい山を攻略する秘策を手に入れたのかもしれない。

もしも大群が山を越えて押し寄せてきたら。

帝国とラスファイドとの兵力の差は、誰の目にも明らかだ。

帝国軍が山を越える前に手を打たなければ。


じっとしてはいられない。

この国のために、自分にできることをする。

平和に生きていたいから。


この国が好きだから。


(つづきへ→)

夏にたびだつ (3)

全体が大きな斜面に貼りつくように作られているラスファイドの都。

町は上のほうから形成されていき、時が経つにつれて古くなる建物を捨て去るように下方へと広がり、町の中心も徐々に斜面を下っていった。


王宮も以前は斜面の一番上にあったが、老朽化を理由に斜面の中腹へと移っている。

レイナの生家であるアレイス家の邸宅も、王宮から程近い場所にある。周りはみな有力貴族が邸宅を構える界隈。そこからさらに下ると、繁華街や、一般市民の住宅地が広がっている。そのあたりは多くの人が行き交う活気にあふれたところである。


対して、坂の上に残る古い町並は、かつての賑わいをわずかに偲ばせる色褪せたレンガの壁が連なり、静かではあるが重厚な空気を感じる。

人影の少ない古町は、物思いにふけるにはちょうど良い場所。

レイナはその古町のレンガの壁に背中を預けて座っている。

小高い丘のようになっている地点で、目の前は五歩ほど進めばほぼ垂直な切り立った崖。

眼下に都を一望できるこの場所は、レイナの一番気に入っているところだ。

学生時代、講義のあとによく立ち寄った。

何をするでもなく、この場所に座って景色を眺める。


傍らにはいつもユウリがいた。

共に景色を眺め、ゆっくりと過ぎる時間を楽しんだものだ。

もう戻らない、なつかしい日々。


レイナはふいに空を見上げた。

夏のつき抜けるような鮮やかな青空がひろがっている。

この空の色だけは、あの頃と変わらない。

ずっと見つめているとすいこまれてしまいそうな錯覚に陥る。

追憶の中に引き戻されていくような、奇妙な浮遊感。

悪くない。


しばらく空を眺めていると、遠くから足音が聞こえてきた。

石畳を蹴るその音は、軽快で小気味よい。

少しずつレイナのいるところへと近づいてくる。

その音がはっきりとしてくるにつれて、レイナの意識も現実へと戻ってくる。

レイナにはすぐに足音の主がだれかわかった。


こんな場所までやってくる者はレイナの思いつく限りひとりだけ。

ここは通りから外れた古い民家の、さらに裏手にいりくんだ場所で、手入れされずに放置され、雑草の生い茂る狭い通路を通らなければ辿りつけない。今では空き家だらけになっている古町にあって、めったに人の出入りするような場所ではない。


足音はレイナから三歩ほどの位置で止まった。

「さがしました。ここにいらしたんですね」

予想通りのユウリの声。穏やかな声。

レイナが見やると、ユウリは珍しく額にうっすらと汗を浮かべている。

どういう鍛錬の仕方をしているのか、普段はあまり汗をかかない。

レイナの姿が見えないので、方々をだいぶ探し回ってくれたのだろう。

そのことが、妙にうれしかった。でも、口にはしなかった。


目の前のユウリの瞳は、ラスファイドの都の上を今まさに覆っている、夏の空と同じ色をしている。その瞳がじっとこちらを見ていた。

すいこまれそうだった。


(つづきへ→)

夏にたびだつ (4)

「これからどうされるおつもりなんです?」

レイナから三歩ほどの位置でゆっくりと腰を下ろしたユウリが静かに訊ねてきた。

ユウリの顔からは早くも汗はひき、いつもどおりの淡白な表情になっている。整った造作もあわさって、血の通わぬ人形のように思えた。


瞳の色は、まだわずかに先程の青の色味を残している。


瞳が青くなるのは、アニミノードと呼ばれる技能を持っている証。

アニミノードは万物の気配を感じ取り、それを増幅、減弱させる技術のことをいう。

つまり人、動物、植物から石、土、水、空気にいたるまで、この世に存在するあらゆるものにはそれぞれ特有のエネルギーがあり、そのエネルギーを引き出したり、逆に閉じ込めたりすることで、いわゆる超常現象のようなものを引き起こすのである。たとえば、遠くにあるものを手を触れずに異動させたり、火の気の無いところに火をおこしたり、特有のエネルギーを識別することで探し物をしたり。

そういった超常の力を操る技能がアニミノード。

この力を使うと、使用者の瞳の色が青く変化する。強い力を使うと、それに比例して青は鮮やかさと濃さを増す。

ラスファイドでは、全てのひとにこの能力はあるとされている。ただその力の強さにはかなりの個人差があり、中には本能的のこの能力を使うのに長けたものがいて、何の訓練も受けなくても難なく念動力を使ったりすることがあるが、逆にかなり訓練してもほとんど力を発揮しない者もいる。


士官学校では、全ての学生が少なくとも一度はこのアニミノードの専門的な訓練を受けることになる。

戦闘において非常に役立つ能力であるため、個人個人の能力に応じてできる限りの技能を修得できるようにする。


レイナはアニミノードに関してはごく平凡な才能しか持っていなかった。卓越した剣技と比べるとあまり人に誇れるようなものではない。

そんなレイナに対して、ユウリはというと、かなり恵まれた才能を持っているようである。

人前ではあまり力を見せようとはしないが、レイナの身に危険が及びそうになったときに、その力を使って助けてくれたことが過去に何度かある。


今もきっとそうだろう。

急に姿を消したレイナを見つけるために、普段は使わぬアニミノードを駆使して都中を探したのだろう。この広い都で、たくさんの人の中からレイナの持つ固有のエネルギーだけを探知するのは容易ではない。

レイナを見つけたときのユウリの瞳は真っ青だった。

あれほどの青を、レイナは士官学校でかなり優秀な技能を修得した学友たちにさえ見出したことはない。


「ユウリ、きみってやっぱり相当なアニミノードを持っているね」

「何です?急に」

「真っ青だったよ、さっきのきみの瞳」

レイナのその言葉に、ユウリは片手を顔に近づけた。レイナから視線をそらし、手で顔を隠すようにする。

「見間違いでしょう」

「苦しい言い逃れだな。なにも私にまで隠さなくてもいいだろう。誰にも言わないよ。きみが秘密にしていたいなら」

ユウリは何も答えなかった。

レイナはユウリのほうへと歩み寄って、傍らに座った。

ユウリの肩に手を置く。

「さがしにきてくれてありがとう」

そう言ってレイナが微笑みかけると、ユウリの表情も少しだけ和む。

「実は困ってたんだ。急に飛び出してきてしまったから、持ち合わせがなくて。少し貸してもらえないかな。近いうちに必ず返すから」

手を合わせてたのむレイナに、ユウリはゆっくり首を振る。

「戻りましょう、屋敷に」

「戻れないよ」

「レイナさま」

「兄上に啖呵をきってしまったんだ、すぐ戻ったらかっこ悪いじゃないか」

レイナは弱ったという顔をしておどけてみせた。

つられてユウリもわずかに表情を崩す。

瞳の色は、いつもの漆黒に戻っていた。


(つづきへ→)


夏にたびだつ (5)

「……やはり入隊なさるんですか」

しばらく無言で景色を眺めていたレイナに、ユウリがぽつりと問いかけた。

「そうするつもりだよ。明日にでも志願書を出しに行く。受理してもらえるかはわからないけど」

レイナは眼下の都のほうに視線を貼りつけたまま言った。

「もう決めてしまわれたのですね」

「うん。私だって武門アレイス家の一員だ。非力かもしれないけど、この危急のときに何もしないで家に閉じこもっているなんてできないよ。第一線で活躍したいなんて大それたことを考えているわけじゃない。残念ながら実践経験はまるでないからね。でも炊き出しの手伝いでも物資を運ぶ手伝いでも何でもいいんだ。少しでも手伝えることがあるならぜひやらせてほしい、それだけだ」

そこまで言うと、レイナはユウリのほうに視線を移した。

ゆずらない、という強い意志をそのまなざしに宿していた。


ユウリはしばらく黙ったまま、レイナの視線を受け止めていた。

レイナも静かにユウリの言葉を待つ。

やがてふうっとひとつため息をついたユウリは、少し困ったような顔をして、

「レイナさまのお考えはよくわかりました。あなたが入隊されるのでしたら、ぼくもお供させていただきます」

と言ってきた。

「一緒にきてくれるの」

「レイナさまが行かれるところはどこへでもお供すると申し上げたはずです」

「本当にいいのかい?いやなら来なくていいんだよ、無理にまきこむのは気が引ける」

レイナはユウリの表情をうかがった。

もちろん一緒に来て欲しいというのがレイナの本心だが、強制はしたくない。今のユウリには、兄に仕えてアレイス家に残るという道もある。

ユウリの顔は、少し寂しげな表情をしたように見えた。

「少し歩こうか」

レイナはユウリを促して歩きはじめた。

(つづきへ→)



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