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ハトノユメ

自作小説ブログ

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飛翔 (1)

「ああ、無事だったんだね。よかった」

集合場所にたどりついたアルバトロスを、先に到着していたイーグルとバーディ、そして今回の作戦に参加している関係者が迎えてくれた。

滑走路として使う予定の山道からほどちかいところ、小さな山小屋の床下に作られた、広い地下室。

アルバトロスの姿を見つけたバーディは、駆け寄ってきてアルバトロスに抱きついた。

「本当によかった。心配していたんだよ」

心底安心したという様子のバーディの肩を、アルバトロスはぽんぽんとたたいた。ひげ男が自分をおちつかせるためにしてくれたように。

「心配かけてごめん」


涙ぐむバーディをなだめていると、ゆっくりとイーグルが近付いてきた。

「ヘマをしたもんだな、まさかお前が遅刻するとは思わなかったよ」

「ごめん」

毒づく言葉とは裏腹に、イーグルの表情はいつもより穏やかに思えた。

「どうなることかと思った。世話をかけさせるなよ」

そう言ってきびすをかえすと、少しはなれた場所でタバコをすいはじめた。

おちつきをとりもどしたバーディが、イーグルの様子をちらっと見てからアルバトロスに耳打ちをする。

「あんなこと言ってるけど、本当は君のことかなり心配していたんだよ」

アルバトロスがバーディの顔を見ると、バーディはやれやれという表情をうかべていた。

「列車に乗ってから、どうして君が来ないんだってずうっとイライラしててさ。夜行に乗り換えてからも、一睡もできなかったみたい」

「そうなんだ」

「冷静でクールなやつだとばっかり思ってたけど、そうでもないのかもね」


一服するイーグルのうしろすがたをながめながら、アルバトロスは少しほほえんだ。


(つづきへ→)

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飛翔 (2)

「どうやってここまできたの」

バーディが訊ねてくる。

「途中で偶然仲間と会ったんだ。その人に助けてもらって」

「そうだったの」

「くわしいことはあとでおちついてから話すよ。とりあえず何か飲みたいな。すごくのどが渇いた」

アルバトロスの言葉に、バーディは満面の笑顔になる。

「そう言うだろうと思って、レモン水を作っておいたよ」

「バーディが作ってくれたの」

「うん。ここにはなかったから。レシピを知らないんで勘で作ったから、口に合うかはわからないけど」

バーディは部屋の隅に置かれた冷蔵庫のほうへかけていく。そこから瓶をとると、棚からコップをだして注いだ。

手近の小机にコップをおくと、「さあ、どうぞ」とアルバトロスにすすめてくれた。

「いただきます」

心配そうなバーディの視線をうけながら、一口のんでみる。

さわやかなレモンの香りと、甘酸っぱい味が広がる。

「どう」

「うん、おいしい」

辺境の基地に勤務していた時、よく通っていた喫茶店で飲んだレモン水に似ていると思った。なつかしい味だった。

アルバトロスの反応に、バーディは「よかった」と言って笑った。アルバトロスはさらにごくごくと飲んで、おかわりをもらった。

「ねえ、レモン以外に何をいれたの?」

二杯目を飲みながらバーディに訊ねる。バーディは棚からだしてきたクッキーをほおばりながら、

「ハチミツを入れたよ」

と答えた。

「そうか、ハチミツか」

アルバトロスは、あの忘れがたい店のことをふと考えた。今回の任務が終わったら、思い切って休暇を取って訪ねてみるのもいいかもしれない。

店主からの問いには、まだ答えはでていないけれど。なぜ戦うのかという、あの問いには。


アルバトロスはゆっくりと、二杯目のレモン水を飲み終えた。


(つづきへ→)



飛翔 (3)

約束の日、アルバトロスはイーグル、バーディとともに飛び立った。

山道を利用した滑走路はふだんよりやや難があったが、幸い車輪を損傷することなく離陸できた。

別動隊として同じ場所を目指していたはずのほかの三名は、約束の期日に現れなかった。今どこでどうしているのか、アルバトロスたちには知らされていない。無事でいてほしい、と願った。

三角形の隊列を作って飛行する。先頭はイーグル、そのうしろをバーディとアルバトロスが並ぶようなかたち。

攻撃目標は敵国の戦闘機生産の主軸をになっているといわれる工場だ。

普段の任務では扱わない小型の投下弾を、三機とも四発ずつ搭載している。とはいえ、小型戦闘機に積める投下弾の威力はたかが知れている。工場を破壊するほどの火力は期待できない。

三機の任務は、あとからやってきている爆撃機が仕事をしやすいように、敵を減らしておくことだ。

工場の防衛のために備えられているであろう対空迎撃砲を破壊するために、投下弾を持ってきた。あとは、周辺から異変を察知してやってくる敵戦闘機を蹴散らすのが役目。


アルバトロスのなかで、戦うことへの迷いは消えていない。

だが今は、一緒に本国へ帰りたいと思う仲間がいる。

バーディ、イーグルとともに無事に帰り着くために最善をつくそうと思った。


------


目標の工場が見えた。
向こうが異変を察知して対空迎撃砲を撃ってくる。難なくかわして投下弾を落とす。

やがて方々から煙が上がり始めた。

遠くから、ちらちらと光るものがいくつも近づいてくる。敵戦闘機がきたのだ。

前を飛ぶイーグルが翼をふる。「戦闘開始」の合図。バーディが尾翼をふって横方向へ逸れた。アルバトロスも反対方向へ転回。

舵をきったとたんに、自然とスイッチがはいる。

戦闘用の神経が目を覚ます。

あとは、自分の感性にまかせるだけだ。


(つづきへ→)



飛翔 (4)

いくつもの戦闘機が行き交う空。

その中で、アルバトロスの駆る機体だけが、不思議なほど滑らかに、何ものの抵抗もかんじさせない様子で、空に美しい軌跡を描いてゆく。

上昇、反転、下降、旋回。

美しいまでの連続動作をみせるアルバトロスは、あまりにもあっさりと、敵戦闘機を墜としてゆく。

その飛び方は、

放たれてくる機関銃の弾道を予知しているかのような、

向かってくる全ての機体の軌跡を予知しているかのような、

ひとり違う世界を飛んでいるような、

そんな風にみえるほど。



上昇、反転、下降、旋回、そしてまた上昇。


縦横無尽に飛び回るその姿は、あらゆる地上の束縛から解放された、一瞬の自由を謳歌しているようだった。


地上にもどれば、また悩むことになるのだ。

わかりきったことだ。

戦闘スイッチがきれたとたんに、アルバトロスの思考は色々なものが交錯しはじめる。


それでも、飛んでいる時だけは、柵(しがらみ)も、悩みもなにもかも忘れ、ただ美しい軌跡を描くことだけを考えていたい。

仲間とともに、帰るために。

アルバトロスは自分の中にある多面性をすでに自覚している。

飛ぶことを渇望する自分、戦いを厭う自分、仲間を想う自分、独り悩む自分。

何人もの自分がいることを。

そしてそれは、ずっと抱えていかなければならないものであることも。

人は、いくつもの側面をもった複雑怪奇なものであることを、アルバトロスは知った。


(つづきへ→)





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ファンタジーが好き、ちょっとせつない読後感を目指す管理人がマイペースに書いております。

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